幼い頃から絵を描くのが大好きだった真知寿は、父の会社の倒産、両親の自殺、生活の困窮という辛い経験を経て、画家になることだけを人生の指針として生きるしかなくなってしまう。そして、ひたすら芸術に打ち込んでいくが、現実は厳しかった。そんな彼の前に現れた女性、幸子。
−−「私なら、彼の芸術、わかると思う」。彼女のその言葉は、真知寿に愛と希望を与えた。やがてふたりは結婚し、真知寿の夢は夫婦の夢となる。
健気に芸術を続ける真知寿の人生を、田舎町で大らかに絵を描いて暮らした少年時代、バイトと芸術に明け暮れ、恋をした青年時代、夫婦でともに創作活動に励み、絆を深めていく中年時代と、三つの世代に渡って静かに綴った本作。世間の評価や成功を得ることはできなかった真知寿だが、心から打ち込める芸術に出会い、彼のすべて理解してくれる女性と愛し合った。
簡単にはうまく行かない日々の中で、本当にかけがえのないものに気づいていく彼の姿は、私たちに夫婦のあり方や幸福の意味を問いかけ、穏やかな感動を与えてくれる。
これまで誰かがそばにいても、主軸は孤独な男の物語であった北野武監督だが、本作では、主人公と積極的に関わる魅力的な女性像を生み出した。その女性・幸子を演じたのは、『明日の記憶』(06)の献身的な妻役で女性の共感を得た樋口可南子。夢を追い続ける夫・真知寿のそばで、あくまでごく普通の感覚を失わず、彼の不甲斐なさも丸ごと愛する妻・幸子の姿は、大きな安心感を与えてくれる。
時に真剣に、時にユーモラスに、夫婦のカタチを作り上げていくふたり。年を重ねてもこんなふうに一緒にいられたら…と、誰もが憧れるような”ほのぼの”かわいい中年カップルが誕生した。
若い頃の幸子を演じたのは、『夕凪の街 桜の国』(07)で多数の主演女優賞を獲得し、映画女優としてますます輝く麻生久美子。青年時代の真知寿には、『3−4×10月』(90)での主演以来18年ぶりに師匠・北野武の作品でメインキャストを務める柳憂怜。そして脇を固めるのは、大森南朋、中尾彬、伊武雅刀、大杉蓮と、今回もまた個性豊かな豪華キャストが揃った。 |